LILLENSTRØM駅. 
写真: T. Kitagawa.LILLENSTRØM駅. 写真: T. Kitagawa

【2】オスロ郊外の気持ちの良い小さな駅-本当の豊かさとは何だろう

最終更新日: 15/11/2011 // 建築家アールネヘンリクセンの事例(テキスト・写真:北川卓)

近年のノルウェーの駅建築のなかで話題性の高いプロジェクトとして、2006年8月に完成したオスロの地下鉄環状線の駅があげられます。このプロジェクトのなかで、イェンセン&スコドヴィンや女性建築家クリスティン・ヤルムン氏が手がけたデザイン性の高い駅ができあがり、建築的にもちょっとした話題になりました。
(詳細についてはオスロ在住のランドスケープアーキテクト 中英公子さんにより以下のサイトで紹介されています:http://www.japandesign.ne.jp/HTM/REPORT/norway/28/


昨年ノルウェーを訪問した際、かねてから特に関心を抱いていた建築家、アルネ・ヘンリクセンさんにお目にかかり直接いくつかのプロジェクトを案内していただきました。

ノルウェースタイルの設計事務所
以前よりノルウェー建築についてサーチをしてきた私は、オスロ郊外に魅力的な駅がいくつかあることに気づきました。限られた資料を集めて読み進む中で建築家ヘンリクセン氏を知り、以来常に関心を抱いてきました。今回ノルウェーを訪問するに当り、私からのお願いを彼は暖かく受け入れてくれました。

ヘンリクセン氏の設計事務所は、オスロ中心部の閑静な町中にあります。丁度訪問時が昼時であったこともあり、会うやいなや「さあ、食事にしよう!」と嬉しいお誘いをいただきました。
事務所のスタッフは3人。持ち回りで昼食を作っているとのことでした。北欧では典型的なランチスタイルで、食事としては非常にシンプルなものでしたが、一つ一つが私にとってはとっても興味あるものばかりでした。何よりも食卓の上の色彩がとにかくビビッド。そこに置かれたそれぞれのパッケージデザインや、使われている色彩によるものなのか、私たちが想像する職場の食卓風景とは異なることは確かです。

仕事場は、小さな集合住宅の一室という趣で、オフィスというよりもアトリエと呼ぶのが相応しいかもしれません。北欧の設計事務所に良く見受けられる感じの雰囲気で、私が訪れた秋の日の昼下がり、仕事場にはゆったりと穏やかな時間が流れている印象を受けました。

事務所での昼の食卓風景. 
写真: T. Kitagawa.事務所での昼の食卓風景. 写真: T. Kitagawa
アルネ・ヘンリクセン氏の事務所風景. 
写真: T. Kitagawa.アルネ・ヘンリクセン氏の事務所風景. 写真: T. Kitagawa

 

オフィスを出てまず案内されたのは、オスロから東へ22キロほどの郊外にあるLillestrøm駅です。駅の番線ごとに4色の色が使い分けられています。その色彩とコンクリートの素材の対比が美しく、実に存在感のある雰囲気です。

LILLENSTRØM駅地下通路。手前の青い壁の向こうに隣のプラットフォームの緑色が見えます。. 
写真: T.Kitagawa.LILLENSTRØM駅地下通路。手前の青い壁の向こうに隣のプラットフォームの緑色が見えます。. 写真: T.Kitagawa

LILLENSTRØM駅。こちらは黄色いプラットフォームの様子。どの色も実に落ち着いた美しい色味です。ドーナッツ型のベンチも同じくヘンリクセン氏のデザイン。. 
写真: T. Kitagawa.LILLENSTRØM駅。こちらは黄色いプラットフォームの様子。どの色も実に落ち着いた美しい色味です。ドーナッツ型のベンチも同じくヘンリクセン氏のデザイン。. 写真: T. Kitagawa

LILLENSTRØM駅。地上部のプラットフォームにあがる階段の脇に設けられた、トップライトから明るい光が差し込むデザインとなっています。. 
写真: T. Kitagawa.LILLENSTRØM駅。地上部のプラットフォームにあがる階段の脇に設けられた、トップライトから明るい光が差し込むデザインとなっています。. 写真: T. Kitagawa
 

Eidsvoll駅
湖畔に位置するこちらの駅は、プラットホームから美しい湖畔の景色を臨む立地です。周囲の景色や色彩に馴染む屋根を支える架構材がとても美しいデザインです。
Eidsvoll駅. 
写真: T. Kitagawa.Eidsvoll駅. 写真: T. Kitagawa

こちらの駅も、待合いスペースのベンチを含めすべてヘンリクセン氏によるデザイン。. 
写真: T.Kitagawa.こちらの駅も、待合いスペースのベンチを含めすべてヘンリクセン氏によるデザイン。. 写真: T.Kitagawa
 

Slependen駅

高低差のある立地をつなぐ円形のスロープと、そこから繋がる木の架構が美しい駅です。

スパイラル状のスロープタワーが5階ほどの高低差を解消。. 
写真: T. Kitagawa.スパイラル状のスロープタワーが5階ほどの高低差を解消。. 写真: T. Kitagawa

 

建築家アルネ・ヘンリクセン
1941年生まれのヘンリクセン氏は今年70歳。若い頃1963-65年にパリに滞在していた経歴があり、その後ノルウェーの国営鉄道で建築の設計に携わっていました。その後独立し、1989年から自らの設計事務所を運営しています。

写真: T. Kitagawa.写真: T. Kitagawa

ヘンリクセン氏は、世界の鉄道関係で優秀な業績を表彰し贈られるブルネル賞を受賞しています。これまでに設計を手がけた駅の数を尋ねたところ「う〜ん、分からない」との回答。それもそのはずで、後日送られてきた作品集をみると実に数多くの駅の設計を手がけており、オスロ近郊には彼の仕事が数多く点在していることを知りました。とはいえ、彼は駅建築の専門家でもなく、住宅等も手がける建築家です。


建築家は、公共性の高い施設に於いても十分に職能が発揮されるべきだと私は考えます。日本では、ともすれば特殊な領域を指向しがちで、それは建築家が自ら選んでいることにあるのか、建築家が発揮できる職域にフィールドを広げ難い社会構造になっているのか。理由は両方にあるように思えます。

こうしたジレンマを感じながら日々仕事をいているわけですが、ヘンリクセン氏が歩んできたこれまでの道程とその実績は、奇抜ではなくしっかり地に足を着けながら、建物が悠久に存在するようにさえ感じるのです。必ずしも最先端を追うことなく、デザインの根底にある真の豊かさを追求する精神が心地よく伝わってくるのでした。

堅実なノルウェーデザイン
ノルウェーのデザインを総括して述べることはできませんが、『堅実さ』が重要なキーワードとなることは確かだと改めて実感しました。

日本でも、現在東京駅がオリジナルのかたちに復元されるプロジェクトが着々と完成に向けて進んでいます。また大阪の駅には今までにはない公共性と楽しさを人々に提供する動きがあり、商業一辺倒ではない交通空間と都市との接点が表れはじめた気がしています。しかし、まだそれは一握りの印象です。東京から郊外に延びる鉄道がたくさんあるなか、気持良い快適な空間が生み出されている駅は多くは見当たらず、機能は充足しても本当に豊かな公共空間になっているとは残念ながら言い切ることはできません。

物理的な機能が満たされていく日本の今後の数十年を考えるとき、真の豊かさを創造するために、デザインそして生活を見直す時が来たのではないでしょうか。そうした時、アルネ・ヘンリクセン氏の仕事が示唆に富むものと改めて感じるのです。 


北川卓(きたがわ たく):
フレームデザイン主宰。1996年から98年までフィンランドヘルシンキに政府給費留学生として滞在。その後「世界の建築と都市-北欧編」(エクスナレッジより2003年4月出版)執筆。スヴェレ・フェーン展(2004-5年・東京芸術大学)の企画や、トロンハイム工科大学とのワークショップ(2006年・東京芸術大学建築科)などノルウェーとの交流に積極的に携わる。 

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