ノルウェージャズの歴史は実は浅いものです。米国で生まれたジャズがヨーロッパを席捲した頃、ノルウェーでは米国の人気アーチストを受け入れる演奏会場が少なく、高額なギャラも払えなかったため、本場のジャズが国内では聴けないという状況が長く続きました。ジャズファンにとっては不都合なこの状況が、一方では本場の伝統にとらわれない自由な土壌につながりました。
1960年代に入るとECMレーベルがノルウェー人アーチストを積極的に世に送り出し、その新しい感覚が国を越えて音楽界に大きな影響を与えました。Jan Garbarek (sax)、 Terje Rypdal (g)、 Jon Christensen (drums/perc)、 Arild Andersen (b)などがその代表格です。今でもECMは多くのノルウェー人アーチストを紹介する役割を担っています。また、女性ヴォーカリストのKarin Krog はこの頃から人気を博し、今でも第一線で活躍しています。
80年代に入ると、ノルウェージャズ協会が独自のレーベルOdinを設立し、「ノルウェージャズを世界に(Jazz out of Norway)」をスローガンに掲げて、ノルウェージャズの魅力を世界に知らせる努力を始めました。Odinを皮切りに、さまざまな団体やアーチストが採算を度外視して、それぞれに異彩を放つレーベルを創設しました。現在は、NORCD、 Rune Grammofon、 SOFA、 Curling Legs、 Jazzland、Smalltown Superjazzz などのレーベルが注目を集めています。
90年代に入ると、「ノルウェージャズ」は固有のジャンルとして強烈な存在感を放つようになり、Nils Petter Molvær (tp)、Arve Henriksen (tp)、 Bugge Wesseltoft (kb)、Sidsel Endresen (vo)、Paal Nilssen-Love (drums)らのミュージシャン、またグループとしてはUrban Connection、Come Shine、 Atomic など人気実力ともにトップレベルの先鋭的なアーチストが数多く登場し、欧州や米国をはじめ国際的に高い評価を得ているほか、日本でも少しずつファンが増えてきました。ECMの60年代に続き、第二のノルウェージャズ黄金期が到来したともいえます。
ノルウェージャズの特徴は、ポップスやロック、またエレクトロニカやワールドミュージックなどと区分けすることが難しいことです。ジャズアーチストのCDを手にすると、民俗音楽、現代音楽、クラシックの音楽家等と自由に行き来があり、それぞれが音楽性に合わせていくつものグループを組み、そのゆるやかな連帯が、形や人数を変えて広がっているのが分かります。その豊かさと常に変化しつづけ新たな可能性を探る姿勢がノルウェージャズの真髄ともいえるでしょう。
人口450万人の小国でなぜ国際的に評価されるジャズアーチストが量産され得るのか。その答えのひとつは音楽教育にあります。レベルの高い音楽学校にジャズ科が設置され、優秀なアーチストを輩出しているのです。
名門のトロンハイム科学技術大学の音楽部には25年の歴史があり、世界に誇るジャズ教授陣が揃っています。ジャズ科の学生はクラシック音楽の学生たちとも密接に交流します。また、ジャズ教育学を学ぶことも可能で、狭いジャンルに拘泥しない良質な教師が生まれ、次の世代のジャズアーチストの裾野を広げていきます。ジャズアーチストの層が厚いからこそ、エレクトロニカ、ノイズ、フリーなど様々な要素を融合しながらそれぞれの個性を際立たせることが可能なのです。トロンハイムのほか、オスロ国立音楽アカデミーとスタヴァンゲル大学にもジャズ科があります。
音楽好きな国民性も、良質な音楽の発展を支えています。ノルウェー人はライヴハウスやコンサートに気軽に出かけていきます。ジャズ・フェスティバルでも、老若男女が思い思いに演奏を楽しんでいて、世代に関わらず、新しいものに開かれた感性があります。フェスティバルもさかんで、約20ものジャズ・フェスティバルが毎年各地で行われています。主なものは下記の通りです。
★モルデ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバル
http://www.moldejazz.no/
★オスロ・ジャズ・フェスティバル
http://www.oslojazz.no/
(>>「オスロ・ジャズ・フェスティバルを訪ねて」)
★コンクスベルグ・ジャズ・フェスティバル
http://www.kongsberg-jazzfestival.no/
★ヴォッサ・ジャズ
http://www.vossajazz.no/
★トロンハイム・ジャズ・フェスティバル
http://www.trondheim-jazzfestival.no/
★ナットヤス(ベルゲン・ジャズ・フェスティバル)
http://nattjazz.no/
1953年創立のノルウェージャズ協会(The Norwegian Jazz Federation)も、先のOdinレーベルとしての活動を初めとしてノルウェージャズの普及に大きな役割を果たしています。国内23のジャズ・フェスティバル、61のジャズクラブ、88のビッグバンド、357人の演奏家および77人のジャズ学生が登録し、会員のネットワークを図るとともに、ノルウェージャズの国内外での紹介や財政強化を図る中核として機能しています。ジャズ協会の運営費用は公的資金によってまかなわれ、会員であるジャズクラブには助成金が支給されています。アーチストたちも海外ツアーを行う際助成を受けることができます。
このように公共機関が積極的にジャズアーチストをバックアップしていることもノルウェージャズが花開いた背景にあるといえるでしょう。