雪景色、ホグセット氏宅より(12月初め). 写真: Y. Akasakaノルウェーは合唱の国としても世界的に知られています。美しい風景と同様、独特の透明感のある響きを持った合唱団が多数あり、日本でもとても人気があります。
そんな憧れのノルウェーに2009年10月末から12月までの約2ヶ月間滞在することができました。ノルウェー王国大使館より奨学金を受け、オスロに滞在する機会を得たのです。2ヶ月の間にノルウェー国立音楽院で授業を聴講したり、合唱団の一員として演奏会に出演したほか、たくさんの音楽会へ足を運びノルウェーの音楽を堪能しました。
この奨学金を頂くきっかけとなったのは、「トウキョウカンタート」という、毎年ゴールデンウィークに開催されている合唱音楽のイベントでした。2008年に日本で初めてとなる「合唱指揮」のためのコンクールがトウキョウカンタートの一環として開催されました。ここで、優勝者としてノルウェー王国大使館奨学金を受賞し、短期留学の機会を得ることができたのです。(>> トウキョウカンタート)
トウキョウカンタートの招聘合唱指揮者の一人であり、この合唱指揮コンクールを提唱されたカール・ホグセット氏が、短期滞在の受け入れ準備を整えて下さいました。オスロでは市内のホグセット氏のご自宅にホームステイさせて頂きました。場所も地下鉄の駅のすぐ近くでグスタフ・ヴィーゲランの彫刻があるフログネル公園にも徒歩で行くことが出来る便利な場所です。そのため滞在中オスロ中心部はもちろん、ムンク美術館やスキージャンプ台などの観光名所もたっぷりと観ることが出来ました。
ノルウェー国立音楽院では主に合唱指揮のマスタークラスの聴講をしました。日本では、オーケストラの指揮者のための学科はありますが、合唱のための指揮者を育成する機関はほぼ皆無なので、強い興味を持っていました。女性の生徒が2人在籍していましたが、学年では1人ずつで、狭き門と聞きました。指導はソリスト合唱団と共に来日されたこともある女性指揮者グレーテ・ペーデェン氏 (Grete Pedersen)です。授業では実際に12人の歌手を前に練習を行い、その中で先生が指揮のテクニックや練習の進行のコツ、音楽のポイントなどをアドバイスするという実践的なものでした。学期が始まり3ヶ月ほどでコンサートがあり、授業の成果が発表されます。その短い期間で仕上げるレベルの高さと充実した環境にとても驚きました。
ノルウェー国立音楽院. 写真: Y. Akasaka
他には、ホグセット氏が指揮する混声合唱団グレックス・ヴォカーリス(Grex Vocalis)に参加し、演奏会に出演する機会を得ました。会場はオスロ市内の教会でしたが、日本では教会で演奏するチャンスがあまりないので、素晴らしい響きを体感しました。西洋音楽を考える上で、宗教的意義とはまた別に、音楽の成り立ちと教会という音響空間は密接に関係があると実感しました。ノルウェーでも多くの教会で頻繁にコンサートが催され、合唱の演奏会にも教会が会場となることがしばしばです。教会が市民の音楽活動に積極的に関わり、身近な発表の場として機能しているのが印象的でした。
ホグセット氏指導の民謡、童謡を愛唱する会の練習風景. 写真: Y. Akasaka
滞在中授業や演奏の無い時は、可能な限り音楽会に足を運びました。中でも印象的だったのは、オスロ市内でも歴史ある少年合唱団の練習見学と演奏会を聴きに行った時のことです。クリスマス恒例のコンサートがあるということで合唱団のOBも多数参加していました。メンバーにお話を聞くと、少年時代はソプラノを歌っていたが、声変わりもするし成長と共に声が低くなって、結局ソプラノからバスまで混声合唱のパートを全部体験した、と語ってくれました。一生の間にこれだけ長く合唱に関わることはノルウェーでは珍しいことではないらしく、ここでも日本との相違を感じました。
もう一つ、大きな体験はクリスマスです。ホグセット夫妻そしてご親戚やお友達の皆さんが家族のように迎えて頂き、日本では味わえないクリスマスを存分に楽しみました。お孫さんの幼稚園での行事、たくさんのクリスマス・コンサート、街中のクリスマス市、皆が民族衣装を着飾ってのホームパーティー…クリスマスを迎えることを誰もが心から楽しみにしていることが伝わってきました。ホグセット氏が指揮をし、民謡や童謡を愛唱する合唱団にも参加してノルウェーのクリスマスソングも幾つか覚え、パーティーではご家族に混じって一緒に手を取り歌いました。
クリスマス時期のヘンデル作曲「メサイア」演奏会の風景. 写真: Y. Akasaka
日本とノルウェーは地理的には遠い国ですが、合唱を通じて関わるうちにとても身近に感じるようになりました。偶然耳にしたノルウェーの民謡もどことなく日本のものと節回しが似ているように感じ、懐かしい気持ちになります。もっと詳しく知りたいと、更に興味も膨らんできました。これからも音楽や合唱を通じ両国の交流が盛んになることを願っていますし、私も是非またノルウェーを訪れ、刺激を受けたいと思います。
(テキスト・写真 赤坂有紀)
写真: Yuki Akasaka
赤坂有紀プロフィール:
宇都宮大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。声楽を石野健二氏、大島博氏に、指揮法を高階正光氏、森垣桂一氏に師事。
大学在学中より栗山文昭氏のもとで合唱音楽について研鑽を積み、1995年にはWorld Youth Choirメンバーに選出されカナダでのツアーに参加した。現在は歌い手としてソロ・合唱活動を行う他、合唱指揮者、ヴォイス・アンサンブルトレーナーとして活動は多岐に渡る。
2008年Tokyo Cantat主催 第1回「若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、並びにノルウェー王国大使館奨学金を受賞。2009年10月より約2ヶ月間ノルウェー・オスロにて研鑽を積む。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」メンバー。