【ノルウェー現代建築デザインをめぐる No.05】

現在ノルウェー国内で整備が進められている観光道路の沿道に、デザインに工夫を凝らした、新しいコンセプトの休憩所や展望台が次々と誕生しており、利用者はもとより建築・デザイン関係者からも大きな関心が寄せられています。つくり手としてプロジェクトに係わった経験をふまえ、「ナショナル・ツリースト・ルート」についてレポートして頂きました。


連載寄稿【ノルウェー現代建築デザインをめぐる No.05】
『ナショナル・ツーリストルート・プロジェクト①』
山田良(建築家・札幌私立大)

ノルウェーのある現代建築群を紹介する「Detour/ナショナル・ツーリスト・ルート・プロジェクト」展がヨーロッパ各地を巡回し話題になっています。このプロジェクト群は、政府が主体となりノルウェーのフィヨルドや山間部の景勝地に休憩ポイントなどを旅行者のために整備しているものです。

若手の建築家やデザイナーが設計した小規模空間や屋外空間が絶景の中に点在し、他国の現代建築デザインとは異なる風情が専門家に限らずひろく人々を魅了しています。僕がスタッフとして働いていた事務所でも数件の設計作品があり、現在も複数プロジェクトの設計に携わっています。僕自身もその中のひとつのプロジェクトを担当していました。ひとりの設計者として今回よりシリーズでご紹介します。

ノルウェー行きを決めたきっかけでした
ぼくが外国の建築設計事務所で経験を積みたいと思い始めた2001年ころ(当時ぼくはゼネコン設計部の10年目社員でした)、大変印象的な建築作品を雑誌に見つけました。そのころ妻と二人で熊本県のある山間地にパブッリックスペース※を設計する機会があり、ようやくそのプロジェクトが一段落したあたりでした。

※(くまもとアートポリス「鹿北町プロジェクト」山田良+山田綾子2001)Kumamoto Art Polis ‘Kahoku Project’ / Ryo & Ayako Yamada / photo: Koji Horiuchi

自分らの作品と関係するような、公園やランドスケープ的な作品事例を車で毎週のように見に行ったり、図書館で専門誌などを調べる日々だったこともあり、その雑誌の作品群は建築でもランドスケープでもあり、またどこか他の注目される現代建築と異なる情緒を感じさせ僕には新鮮な衝撃でした。1年後いざ外国行きを実行する段になり、あらためてその雑誌を見返したのがノルウェー行きのきっかけとなりました。設計者は「Jensen & Skodvin Arkitektkontor, Oslo」とあり「オスロか~」と全く予期していなかった展開の中で、街やオフィスの勝手な想像を繰り返したことを憶えています。

「マウンテン・ロード・プロジェクト」でした
オフィスに就職希望をさせたそのプロジェクトは「マウンテン・ロード・プロジェクト」でした。1999年の雑誌掲載※当時ではそう呼んでいました。 (※「a+u 」1999年9月号)


Mountains Roads Projects / Jensen & Skodvin Arkitektkontor / photo: Jan Olav Jensen 滝の展望所とトイレブース

現在「ナショナル・ツーリスト・ルート」と呼ばれるこのプロジェクト群の初期のものは、約10年前からスタートしていて、メディアでとり上げられるようになるまで全体の名称も決まっていなかったのかもしれません。長年にわたり、既にある意味「サスティナビリティ」の中でプロジェクト群が動いているのです。業界内では竣工時のあたらしい状態を披露するのが一般的ですが、深い自然の中で佇む建築プロジェクトを広く紹介する手法として理想的だと思います。

仕事をしていたオフィス、イエンセン&スコドヴィン建築設計事務所では、同じく上記プロジェクト群に属するもうひとつのプロジェクト「ロペイド・フェリー待合所」が竣工間近で、ドアの最終納まりや外構などの打ち合わせをしていました。フィヨルドの断崖に位置する現場ミーティングへ参加するのも一苦労で、よくオフィスで「ヘリコプターがほしい!」といったジョークがこのプロジェクトと同時に耳にしたものです。


「風景に近づくための仕掛け」が共通認識でした
「グブランシューベ展望所」のプロジェクトを計画初期の2004年夏から担当していました。オスロから車で6時間ほど北西に走りガイランゲル・フィヨルドを過ぎた谷に位置します。近くに「トロールスティゲン」という有名な景勝地もあり、多くの観光客が訪れるこのエリアの美しさにミーティング初日から圧倒されました。
クライアントとの打合せはキャンプ場の芝生の上で行われ、ランチタイムには野菜スープがふるまわれます。なんという状況でしょうか!

Trollstigen panorama (左)、オフィス代表ヤン・オラフ・イエンセン氏のプレゼン風景Gudbrandsjuvet Project / photo: Ryo Yamada
Gudbrandsjuvet Project / Jensen & Skodvin Arkitektkontor / photo: Jensen & Skodvin Arkitektkontor
Ropeid Ferry Terminal / Jensen & Skodvin Arkitektkontor / photo: Jensen & Skodvin Arkitektkontor

オフィスのボス、ヤン・オラフ氏はプレゼンテーションの中で「なるべく滝の水に近づくには…」「むこうの山だけを強調して見えるようにするには…」といったいわば風景に近づきまた焦点を強めようという趣旨のコメントをくりかえしていました。
クライアントの意向としても、どのような建築物になるのかはデザイナーにまかせて、美しい風景をより多くの人に楽しんでもらう方法を考えるということが共通認識して伺えます。プロジェクト群全体でもこれは同じ考えであるということができ、そのコンセンサスが各プロジェクトを支える魅力になっていると僕は考えています※。

担当したプロジェクトは2006年に竣工し、日々多くの旅行者に利用されているようです。人が居ることでこの施設は突然息づくようで「Detour(まわり道)はとても優雅な時間であり、未来のデザインの可能性を広げるな」と感激しています。次回も「Detour/ナショナル・ツーリストルート・プロジェクト」についてご紹介します

(※「風景の見せ方に関する考察」環境芸術学会論文(2007年)山田良)
 
(テキスト・写真: やまだりょう)


【ノルウェー現代建築デザインをめぐる】は月に一度の掲載を予定しています。
筆者の山田良氏は、2003から2006年まで文化庁派遣芸術家研修員としてオスロに滞在。Jensen & Skodvin 建築設計事務所に勤務されるとともにオスロ建築デザイン大学(AHO)の建築デザインコース講師を務められました。現札幌市立大学デザイン学部空間デザインコース専任講師。


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