【ノルウェー現代建築デザインをめぐる No. 09】

オスロ建築デザイン大学(AHO)で教鞭をとられた経験に基づくノルウェーの建築デザイン教育についてのレポートです。


【ノルウェー現代建築デザインをめぐる No. 09】
『ノルウェーの建築デザイン教育:オスロ建築デザイン大学』
山田良(建築家・札幌市立大)

今回は建築デザインを学ぶ環境として「オスロ建築デザイン大学」について触れたいと思います。

近年ノルウェーでは、他の北欧諸国と同じく建築デザインのプロを目指す若者が増え入学競争率もかなり高くなっています。ノルウェーで建築を学ぶことができる大学はトロンハイム市にある「ノルウェー工科大学」、そして北部トロムソ市の「トロムソ大学」とありますが、ここにあげます「オスロ建築デザイン大学-Arkitektur og designhøgskolen i Oslo」(以下AHO)は、建築、ランドスケープデザイン、プロダクトデザインの専門大学としてオスロの中心部に位置し、他の二校と比べデザインに特化し注目され学生に人気のある大学です。ぼくはこのAHOで2年間ほど講師をしていました。

AHOの開校は1960年代、初代学長は建築家として世界に知られるスヴェレ・フェーン氏です。多くの教授が話すように現在のAHOの礎はフェーン氏によってつくられたといえ、フェーン氏は大学教育に携わる間、実施設計を殆ど行わず教鞭と大学の基礎形成に従事されていました。

在籍している学生達は、ノルウェーはもとよりスウェーデン、フィンランド、アイスランドと北欧諸国から集まり、また広範囲の交換留学制度により他のヨーロッパ諸国、カナダからの学生達も多く見うけられます。建築デザイン(ランドスケープ含む)・プロダクトデザイン両学科あわせて約400人の学生が学んでいます。

写真上・中央:大学建物は工場跡地のリノベーション。インテリアも最小限に手を加えてあります(共用ベンチと作品展の様子)

全てが‘ものづくり’を見すえている
大学のおおきな特徴になっているのが、建物にはいってはじめに目に入る施設=各種工房の部屋です。木材、金属、プラスチック類の加工ルームがそれぞれ個別に設けられ、必要と思われる機械類は高いレベルで設けられています。またアクリルの形押し工房、コンピュータによる加工工房などプロダクトデザイン科との共有スペースも建築デザインの模型制作などに使うことができます。スタジオコース(演習授業)のなかで、これらの制作環境を活用する仮設のインスタレーション作品、実験作品を作る課題が頻繁に課せられます。メインの設計・デザインプロジェクトを提出するのと平行して実作品を制作、プレゼンテーションするのですが、課題内容としては小さなベンチにはじまり木材にて制作する楽器(実際に演奏します)・仮設のフォリー・大学で使うカフェブースなど様々です。

また、ひとつの講義にてデザイン・構造・設備エンジニアの各分野の教授陣が同席することもコースの中での特徴のひとつです。デザインスタディするうえで欠かせない構造(実現可能か)に関するアドバイスをうけたり、設備面での音響効果を相談するなど実践に近いというだけでなく、よりデザインの可能性が広がる指導方法になっています。

AHO建築デザインの学生作品例 3年生前期のメイン課題作品「屋外小劇場」の模型

木工房 - プロ用の機材が整っています

楽器をつくる課題では木材の特質を学びます
 
フォリー(あずまや)を3時間でつくる-デザインと構造のバランスを体感し考える課題

社会とつながる教育環境-同年代でない同級生-
ぼくはAHOにて3年生のスタジオコースを担当していましたが、当時クラスにはさまざまな国籍と年代の学生がいました。26人のクラス内で30才前後の学生が半分くらいと自分の大学3年生の時とはあきらかに異なる雰囲気です。最も印象的な学生に「息子が上級生にいて、家で課題を見ているうちに建築に興味をもった」という年配の方がいました。また赤ちゃんと一緒にくる女性の学生と会うこともあり、ベビーカーが教室のうしろのほうに置いてあることも珍しくありません。

話は少し逸れますがぼくの知っている範囲では、ノルウェー人の若者は、高校を卒業すると住む場所も家計的にもまず独立します。したがって直ぐに大学進学する経済力も十分でなく、ほとんどの場合一度は就職するようです。この仕事をする期間が彼らいわくとても大切で「自分は将来どのようなことがしたいのか」ということを働きながら考えるそうです。確かにクラスにも大工仕事を4年間ほど続け、建築デザインに興味を持ち入学したという学生がいました。教員も時おり木材加工について彼に教えてもらうほどでした。

異なる年代の学生がひとつのクラスで学ぶ、大学としてとても健康的で社会性のあるすばらしい環境だと思っています。AHO学内では課題や大学生活を話題にするだけでなく、プロになったあとの建築の仕事環境にはじまり、政治や子供を持ったあとの福祉に関することが話題となるなど、おのずと社会とつながった雰囲気となります。もちろんノルウェーの国による就学生へのバックアップが特筆するべきものであることも影響してのことですが、「やりたいときに学べる」ことが結果的に大学生の意識を将来の実社会でのクリエーションへと連続させています。

さまざまな年代と国籍の学生が共に学ぶクラス風景。


(テキスト・写真 山田良 やまだりょう)


【ノルウェー現代建築デザインをめぐる】は、2003から2006年まで文化庁派遣芸術家研修員としてオスロに滞在された山田良氏による寄稿連載です。Jensen & Skodvin 建築設計事務所に勤務されるとともにオスロ建築デザイン大学(AHO)の建築デザインコース講師を務められました。現札幌市立大学デザイン学部空間デザインコース専任講師。


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