【ノルウェー現代建築をめぐるNo.10(最終回)】

昨年春竣工間近のオペラハウスから始まり、異なる側面から現代ノルウェー建築をとりまく環境について案内いただいてきた建築家山田良氏による寄稿連載。最終回となる今回は「ノルウェーと日本の距離」をテーマに、今月オスロで開催された『ジャパンウィーク2009』の紹介とともにレポートして頂きました。


『ノルウェーと日本の距離について想う』
山田良(建築家・札幌市立大)

一年間続けてきたレポートも、とりあえずは今回で最終回とさせて頂きます。「とりあえず」としたのは、今後またかたちを変えて建築デザインまたはアートに関してご報告したいと考えているためで、僕個人もノルウェーとの関係を活かしながら活動し、両国の視点を大切にし続けていきたいと思っているためです。

今月3月18日よりオスロでノルウェーと日本の文化交流を目的とするイベント『第2回ジャパン・ウィーク2009』が開催され、茶室空間のインスタレーション作品 「Tea House Installation」 を現地で制作・出展して参りました。今回は、一週間ほどの滞在期間のなかで改めて経験し感じたことを中心にご報告いたします。

リセッションはノルウェーにも!
リセッション(景気後退)はノルウェーにも届いていました。ここ数年の間は他のヨーロッパ諸国の都市とは別次元の好景気が続いていたオスロでも建築事業が軒並み減少(もしくは中断)し、建築家も日本と同様不安定な職種となっています。5年ほど前から湾岸エリアには次々とあらたなビルディングサイトが建ちあがりはじめ、現在も工事は続いていますが、今後の見通しはあまり見えていないようです。

(オスロ市内の建築現場風景)

多くの建築デザイン事務所でスタッフを減らさざるをえない状況で、僕のいたJensen&Skodvinでも詳細は省きますが5年前の約半数のスタッフとなっていました。
一時沸いていた大規模プロジェクトのコンペ開催数も急速に減り、現在審査中の新ムンク美術館指名コンペが唯一大きな話題となっています。オスロ建築・デザイン大学を今秋卒業予定の学生たちとも話しましたが、彼らの多くが就職難で卒業後に即自分らの事務所を開設せざるをえないと言っていました。それでも即開設できるだけでもうらやましい状況ではあります。


いまいちどヒューマンスケール「ナショナルツーリストルートプロジェクト」へ

僕がそもそもノルウェーの建築デザイン事務所Jensen&Skodvinにて働きたい、と思ったのは山間部の小さなプロジェクト郡(本レポートNo.5号参照)にとても惹かれたからです。自然景観に再度フォーカスをあて、森に溶け込むというよりは建築そのものの存在感を消し、それでいて精緻なディテールとデザインセンスを見ることができました。のちに「National Tourist Route Projects」と政府より命名され他の建築家の作品を合わせてヨーロッパ中で紹介されましたが、このプロジェクトには極小の規模の中にも優雅で強い可能性を感じていました。

さきにも触れました通り、若い建築家にとってプロジェクトを実現するのはなかなか難しい状況となりつつあり、ビックプロジェクトもさることながらこれら山間部の小さなプロジェクトに焦点が当たってきているようです。ノルウェーの建築家のなかで一度は「National Tourist Route Projects」に関わってみたいと思う人は少なくなく、景気の影響もあり「小さくてもクオリティの高いデザインをめざしたい」という意見を今回の滞在中多く耳にしました。
(写真Jensen&Skodvin建築事務所の山間部プロジェクト copyright: Jensen&Skodvin Arkitektkontor)

 

茶室の空間性:ノルウェーと日本のメンタルリンク
オスロで開催された『ジャパン・ウィーク2009』(2009年3月18日~4月23日)にて仮設の茶室空間をインスタレーション作品として製作・出展してきました。一週間の滞在のなか製作が進むにつれ日に日に人々の反響が多くなっていきました(製作は公開で実施)。再生紙の筒をつかって二畳間の茶室・アプローチの前庭・庭園を抽象的に再現しています。茶道において重要な茶室と身体動作の関係、また茶室とはそれを取り囲む周辺環境(庭)やそこに至る静かなアプローチ(道)が不可欠であることを僕なりに表現しています。
(写真 インスタレーション制作のようす2009年3月オスロ)

作品の規模に関わらずそれらの空間連続性をつくったことは少なからずノルウェーではめずらしく、またその極小空間の物語が現在のオスロの人々の興味と少なからずリンクしたようです。上記「National Tourist Route Projects」の建築デザインでもそうですが、ノルウェーの人々には「周辺環境に同化する」「風景の見え方から空間の価値をみる」という美学が強く備わっていると僕は思っていて、日本の茶室空間の成立方法にも共鳴することは不思議ではありません。

自然景観を愛し素朴なノルウェー人気質に好感をもつ日本人はとても多く、僕自身も作品制作を通してあらためて今回「ノルウェーと日本の距離」について不思議と隣り合っているかのような感覚を持ち、また共通する興味や美学を確かめることができました。

ノルウェーと日本、あえて「僕ら」とあらわすとそこには景気やモードにとらわれないシンプルかつ規模にとらわれない力強いライフコンセプトがあるのだとあらためて思います。
ノルウェーの現代建築デザインは、今後より興味深いタームに移っていくでしょう。とても楽しみです!

(テキスト・写真 山田良 やまだりょう)


山田良
2003から2006年まで文化庁派遣芸術家研修員としてオスロに滞在。Jensen & Skodvin 建築設計事務所に勤務されるとともにオスロ建築デザイン大学(AHO)の建築デザインコース講師を務められました。現札幌市立大学デザイン学部空間デザインコース専任講師。
www.ryo-yamada.com


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