③Visueltでノルウェーのヴィジュアル・コミュニケーションシーンの今を知る

最終更新日: 06.06.2014 // 今のご時世、ビジュアルを使ったコミュニケーションはもはや必須である。グラフィックデザインに始まり、テレビコマーシャル、街のポスター、アニメーション、本の装丁、商品パッケージ、果てはSNS やAPPまで、この分野なくして現代社会は成り立たない。ノルウェーもしかり。今回は、ノルウェーのグラフィックシーンについて、軽く触れたい。

オスロに拠点を置くGrafill(グラフィル) は、ノルウェー国内のヴィジュアル・コミュニケーションを生業とする会社やフリーランスの人々、またはヴィジュアル・コミュニケーションを学ぶ学生を対象に、それらの利益団体として活動する非営利の組織である。基本的にメンバー制で運営され、年一回行われるVisuelt(ヴィシュエルト)の企画実施、併設するR21ギャラリーでの展示イベントやワークショップの打ち出しや、ノルウェー作品のプロモーション、アドバイス、バックアップなどを様々な形でサポートしている。

余談とはなるが、私がオスロで主催している震災支援のボランティア団体が行った、2度の震災支援エキシビションも、活動基金と場所提供(R21ギャラリー)において、快くしかし慎重にサポートをしていただいた過去がある。

6月6日までグラフィル内のR21ギャラリーで開催されているエキシビショ『PROSESSEN BAK EN ILLUSTRASJON』。ノルウェーを代表する11人のイラストレーターのデスクを再現している。. 
写真: http://www.grafill.no/nyhet/frode-skaren-prosessen-bak-en-illustrasjon.6月6日までグラフィル内のR21ギャラリーで開催されているエキシビショ『PROSESSEN BAK EN ILLUSTRASJON』。ノルウェーを代表する11人のイラストレーターのデスクを再現している。. 写真: http://www.grafill.no/nyhet/frode-skaren-prosessen-bak-en-illustrasjon
 

今回、現在1300人のメンバーを持つこの機関が行っているメインプロジェクトといえば、Visuelt。ノルウェーのビジュアル・コミュニケーションの流れを、一目で知ることができる年一度のアワードである。

今年は10月中旬(例年は5月半ばだった)に開催されるVisuelt2014。今年で21回目を迎える由緒正しき、ノルウェーグラフィックの登竜門である。毎年このアワードが行われる半年前、つまり出願期間になると、ノルウェーのビジュアル・コミュニケーション業界人はそわそわとし始める。
今年はどの作品を出すか、どのカテゴリーに出願するか…。各カテゴリーにそれぞれの応募規格があり、出願費用もかかるから、特にフリーランスにとっては熟考の末の出願となる。それでも、この賞でノミネート以上の快挙を果たせば、国内での認知度も上がり多くの可能性が広がるチャンスとなる。

新進気鋭、若手2人組が始めたデザイン会社bielke+yang(ビルケ+ヤング)によるVisuelt2014 のプロフィール。昨年に引き続き、色とシェイプのみで作ったコンテンポラリーで躍動感のあるビジュアルが、昨今のグラフィック界の流れでもある。. 
写真: http://www.grafill.no/nyhet/event/visueltkonkurransen-apner-pa-torsdag.新進気鋭、若手2人組が始めたデザイン会社bielke+yang(ビルケ+ヤング)によるVisuelt2014 のプロフィール。昨年に引き続き、色とシェイプのみで作ったコンテンポラリーで躍動感のあるビジュアルが、昨今のグラフィック界の流れでもある。. 写真: http://www.grafill.no/nyhet/event/visueltkonkurransen-apner-pa-torsdag
 (bielke+yang:http://bielkeyang.no/

 

また、審査員を誰が務めるかも話題となる。各カテゴリーに4~5人の審査員をつけ、バランスの良い選考を行うこと。多くは国内で活躍をしているデザイナーで、ナショナリティも様々だ。審査員が出願された膨大な作品を実際に審査する様子なども、メイキングのビデオに収められ、選考の様子を見ることができるのも興味深い。

私的なテイストでのセレクトになってしまうが、昨年Visueltにて金賞を獲った作品と、この5月に世界的に評価の高い賞を同時獲得した作品を、ここに挙げたい。今のノルウェーを担う注目株デザイナーたちの、ノルウェーらしい受賞作品ということで、このデザイナーたちが世界を舞台に活躍する日も遠くないかもしれない。是非、各デザイナーのリンクを開いて、様々な作風をご覧になっていただきたい。

イラストレーションやグラフィックのカテゴリーでの受賞作。北欧らしい素朴なセンスに、ノルウェー独特のひねりや際どいユーモアのきかせたグラフィックワークが賞を獲得していた。冬の長い国で耐え偲んできた国民性から来るのだろうか、ユーモアの質はそれぞれのお国柄を表す気がする。


ここ数年、飛ぶ鳥を落とす勢いでポスターやイラストを精力的に手がけるBendik Kaltenborn (ベンディック・カルテンボーン)。ベンディック独特のイラストテクニックをエネルギッシュな色合いで表現したユーモアのある作品がポスター部門で金賞を獲った。

シアター興行ポスター“All Star Teatersport 8” by Bendik Kaltenborn. 
写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/illustrasjon/plakat/.シアター興行ポスター“All Star Teatersport 8” by Bendik Kaltenborn. 写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/illustrasjon/plakat/
 
 

Uglylogo (アグリーロゴ)のFrode Skaren(フローデ・スカーレン)もまた、近年アワードでのノミネートや受賞が多い注目株である。普段のUglylogoはポップでコミカルなスタイルが多く、多少ぎょっとするようなコミック調のイラストでも知られている。昨今はレストランの内装等も含め幅広く活躍している。

ミュージシャンにまつわるイラストには、シンプルだが力強いアイコン的効果があると評価された。エディトリアル部門での金賞. 
写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/illustrasjon/redaksjonell-illustrasjon/.ミュージシャンにまつわるイラストには、シンプルだが力強いアイコン的効果があると評価された。エディトリアル部門での金賞. 写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/illustrasjon/redaksjonell-illustrasjon/
 

 

雑誌や企業出版物で定評のあるTeft Design(テフト・デザイン)が手がける"OBOS-Bladet”は、33万人の会員を持つ住宅組合の会報誌。このほか、人気の食雑誌NORD や各新聞の週末カルチャー差し込み誌など、雑誌デザインに力を入れている会社である。

読者幅の広い会報誌にありがちな年配感を払拭、新たにモダンなフォントやイラストを多く投入し、若い層も興味を持つ出版物に昇格. 
写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/grafisk-design/redaksjonell-design/.読者幅の広い会報誌にありがちな年配感を払拭、新たにモダンなフォントやイラストを多く投入し、若い層も興味を持つ出版物に昇格. 写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/grafisk-design/redaksjonell-design/
 

パッケージングデザインのカテゴリーでの金賞はThe Metric System Design Studio(ザ メトリック システム デザイン スタジオ)が手がけた、HUSETSブランドのパッケージ。良質のプロダクトを、シンプルなプロダクト名とイラストのみで表しながらも、そのクオリティを伝えていると評価された。ここ数年のオーガニック、地元素材ブームもあり、高級スーパーやこだわりの小売店で人気商品に。

Mathallen をはじめ、こだわり食材を置く小売店で人気のライン。お土産にもいい乾物なども揃っている。. 
写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/grafisk-design/pakningsdesign-mat-helse-og-husholdning/.Mathallen をはじめ、こだわり食材を置く小売店で人気のライン。お土産にもいい乾物なども揃っている。. 写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/grafisk-design/pakningsdesign-mat-helse-og-husholdning/
 

 

日本でも何度か作品を展示した経験のある、知る人ぞ知るグラフィックデザイン集団Yokoland (ヨーコランド)は、受賞の常連者といっても過言ではない。2013年もYokoland の受賞やノミネート作品が数点あったが、中でもPOSTEN(郵政局)をクライアントとした切手デザインはシンプルにして秀逸。ミニマルでシュールな作風が多いYokoland ならではの、冴えたアイデアが光っていた。

アーティスティックなアプローチを駆使しながら、同時にコマーシャルでマスに向けたニーズも満たすことのできるデザイナー集団。毎回の授賞式で、やっぱりね、と言う声が挙がるグループのひとつ。. 
写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/grafisk-design/sa-aldri-dagens-lys/.アーティスティックなアプローチを駆使しながら、同時にコマーシャルでマスに向けたニーズも満たすことのできるデザイナー集団。毎回の授賞式で、やっぱりね、と言う声が挙がるグループのひとつ。. 写真: http://www.grafill.no/visuelt/vinnere/2013/grafisk-design/sa-aldri-dagens-lys/
 

こちらの作品は、2013年のVisueltとは関係のない、ブレイキングニュースとしてご紹介。昨日5月に行われたニューヨークのONE SHOWをはじめ、最近の国際的なグラフィック&広告アワードの数々で金を受賞している、ANTI DESIGN(アンティ デザイン)の作品である。ベルゲン・インターナショナル・フェスティバルのブランドプロフィールから、会場の標識までトータルでデザインを担当しているが、素人目に見ても大変興味深いデザインセンスを感じられる。 

 
(上写真2枚)英語ではあるが、こちらでも金賞を受賞したeuropean designのビデオを見ると、ビジュアルコミュニケーションの可能性が様々な方向へ向いていることが理解できる。モノトーンの線で広がるデザインが素晴らしい。. 
写真: http://anti.as/projects/festspillene-i-bergen.(上写真2枚)英語ではあるが、こちらでも金賞を受賞したeuropean designのビデオを見ると、ビジュアルコミュニケーションの可能性が様々な方向へ向いていることが理解できる。モノトーンの線で広がるデザインが素晴らしい。. 写真: http://anti.as/projects/festspillene-i-bergen
 (European Design: http://www.europeandesign.org/submissions/bergen-international-festival-identity/

 

ビジュアル・コミュニケーションとは、大げさに言えば、ビジュアルのみを使って意思の疎通をはかることのできるツールだ。言語の必要は無しとしたときに、いかにモノを理解しでき、共鳴してもらえるかがカギだと思う。
その視点で見れば、デザイナーたちが世界中をベースに活躍することが最も容易にできるツールのひとつではないだろうか。日本をはじめ世界でノルウェーグラフィックが展示されることもあるかもしれない。
今年のVisueltの結果もぜひ、楽しみにしていてほしい。

 

text Rico Iriyama /入山りこ (ファッション・ジャーナリスト)



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